暦年贈与「したつもり」は禁物——名義預金が相続税の標的になる理由
「毎年110万円ずつ贈与してきたから、相続財産は少ないはずだ」——そう思っていたのに、税務調査で「それは名義預金です」と指摘され、多額の相続税を追徴されるケースが増えています。
贈与したつもりが、実は贈与として認められない。その代表例が名義預金です。本記事では、納税通信(第3924号)の報道をもとに、相続税調査で今まさに狙い撃ちにされている名義預金の実態と、正しい暦年贈与の進め方を解説します。
【この記事でわかること】
- 名義預金とはなにか、相続税でどう扱われるか
- 相続税調査で特に狙われているケースの特徴
- 暦年贈与「したつもり」がNGになる具体的な理由
- 贈与を法的に有効にするための実務的なポイント
- 今すぐできる見直しと対策
結論:贈与は「受け取った側が知っていること」が大前提
贈与が成立するためには、渡す側と受け取る側、双方の合意(贈与契約)が必要です。受取人が口座の存在すら知らない場合、それは「贈与」ではなく「預かり金」または「名義借り」にすぎません。
たとえ毎年110万円以内の入金を繰り返していたとしても、受取人が知らない・管理していない口座への入金は、税務当局から名義預金と判断されます。その場合、口座内の残高の全額が被相続人(故人)の相続財産として相続税の課税対象になります。
名義預金とは何か
名義預金とは、預金口座の名義は妻・子ども・孫など別の人物になっているものの、実質的な管理・所有は被相続人(口座を作った本人)だった預金のことをいいます。
税務上、財産の帰属は「名義」ではなく「実態」で判断されます。名義上は子どもの口座でも、実態として被相続人が管理していれば、その財産は被相続人のものとして相続税の対象になります。
名義預金と判断される主な要件
| チェック項目 | 名義預金と判断されやすい状態 |
|---|---|
| 受取人の認知 | 受取人が口座の存在を知らない |
| 口座の管理者 | 被相続人(故人)が通帳・印鑑を管理していた |
| 印鑑の使用 | 被相続人の印鑑が使われていた |
| 資金の使途 | 受取人が実際に使ったことがない |
| 贈与契約の有無 | 書面による贈与契約書がない |
相続税調査で今まさに狙われているケース
納税通信(第3924号)によれば、税務当局が特に重点的に調査しているのが、暦年贈与の基礎控除枠(110万円)を毎年繰り返して子どもや孫名義の口座に入金し続けていたケースです。
一見すると適法な贈与に見えますが、税務調査官は相続人の口座の入出金状況を数年間さかのぼって精査します。資金の流れに一定のパターンがあり、受取人が管理していた形跡がなければ、名義預金と認定されます。
実際にあったケース(Aさんの事例)
Aさん(故人)は生前、妻と子どもに対して毎年贈与を行っていました。しかし実態は次のようなものでした。
- Aさんが妻・子ども名義の口座を本人に代わって新規開設した
- 妻・子どもはその口座の存在を知らなかった
- 通帳・印鑑はAさんが自分で管理していた
- 口座の入出金をAさん自身が行っていた
- 妻・子どもは一度も出金したことがなかった
このケースでは、Aさんが亡くなった後の相続税調査で、これらの口座すべてが名義預金と認定されました。口座に積み上がっていた残高の全額が、Aさんの相続財産として課税対象になったのです。
「わざと隠していたわけではない」「節税のつもりだった」という主張は、税務調査では通りません。実態として贈与の要件を満たしているかどうかが判断されます。
なぜ「したつもり贈与」が問題になるのか
贈与契約は民法上、「あげる」という意思と「もらう」という意思が合致して初めて成立します(民法549条)。受取人の知らないところで一方的に口座に入金しても、法律上の贈与は成立しません。
また、相続税法では実質主義が採られており、名義にかかわらず実質的な財産の帰属先によって課税が判断されます。これが「名義預金」が相続税の課税対象になる根拠です。
税務当局の調査手法
相続税の税務調査では、以下のような方法で名義預金が洗い出されます。
- 金融機関への反面調査:被相続人名義以外の口座も含め、取引状況を確認
- 資金の流れの追跡:被相続人の口座から相続人名義口座への資金移動を数年間さかのぼって調査
- 印鑑・住所・届出情報の照合:口座開設時の筆跡・印鑑が被相続人のものでないか確認
- 相続人へのヒアリング:口座の存在・管理状況を直接確認
金融機関は本人確認を厳格に行っているため、今後は他人名義の口座を新規開設すること自体が困難になっています。しかし過去に作られた口座については、相続発生後の調査で発覚するケースが後を絶ちません。
相続対策が名義預金になっていないか、確認しませんか?
「これは大丈夫だろう」と思っていた贈与が、実は名義預金だったというケースは少なくありません。現状の対策を専門家と一緒に点検しましょう。
贈与を正しく成立させるための実務ポイント
① 贈与契約書を毎年作成する
口頭での贈与でも法律上は有効ですが、税務上の証拠力を持たせるには書面が必要です。毎年贈与のたびに日付・金額・双方の署名捺印を入れた贈与契約書を作成しましょう。
② 受取人が自分で管理できる口座に振り込む
受取人(妻・子ども・孫)が自ら通帳・印鑑・キャッシュカードを管理している口座に振り込むことが原則です。被相続人が管理する口座は、たとえ名義が別人でも名義預金と判断されます。
③ 受取人が実際に口座を使う
受け取った資金を受取人が実際に生活費・学費・趣味などに使っていれば、「贈与を受けた認識があった」という実態の証明になります。口座残高が何年も変わらず積み上がっている状態は調査対象になりやすいです。
④ 贈与税申告を活用する
110万円以内の贈与は贈与税がかかりません。ただし、あえて110万円をわずかに超えた金額を贈与して少額の贈与税申告・納税を行うことで、「贈与があった」という記録を税務当局に残す方法があります。税理士と相談のうえ検討する価値があります。
⑤ 相続時精算課税制度の活用も選択肢のひとつ
2024年の税制改正により、相続時精算課税制度にも毎年110万円の基礎控除が設けられました。制度の性質上、申告の記録が残りやすく、暦年贈与よりも名義預金のリスクを回避しやすいケースがあります。ただし適用後は原則として暦年贈与に戻れないため、慎重な検討が必要です。
名義預金を整理するには相続前が大切
名義預金の問題は、相続発生後に指摘されてからでは手遅れになることがあります。相続税の課税対象になるだけでなく、過少申告加算税・延滞税が課される場合もあります。
対策としては、生前のうちに以下の対応を検討することが重要です。
- 名義預金となっている口座の残高を被相続人名義の口座に戻す(解消する)
- 今後の贈与を贈与契約書・受取人管理の口座への振込で正式に行う
- 相続財産の全体像を整理し、相続税の試算を行う
- 専門家(税理士・相続コンサルタント)に相談し、対策を体系化する
よくある質問(FAQ)
まとめ:「したつもり」では通らない——今すぐ対策を
相続税の税務調査は年々精緻化しています。特に名義預金については、金融機関への反面調査や資金の流れの追跡を通じて、数年前の取引まで遡って検証されます。
暦年贈与は正しく行えば有効な相続対策ですが、「口座を作って入金しただけ」では贈与として認められません。受取人が知っていて、管理していて、実際に使えることが最低限の要件です。
心当たりのある方は、相続発生前に現状を整理し、専門家のアドバイスのもとで適切な対策を講じることをお勧めします。
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著者・監修:金融財務研究所
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。相続税・贈与税の取り扱いは個人の財産状況・家族構成・贈与の実態により異なります。具体的な対応については、税理士・相続専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。
参考:納税通信 第3924号(2026年6月8日号)


